フィンガースタイルを始めるうえで考えなくてはならないのが、爪のケア。そのままの状態で激しいプレイをすれば、爪が割れたり、剥がれてしまうことも。そこで今回は、フィンガースタイル・ギタリストの伊藤光希を招き、現在プロの間で爪補強の定番となっている“ジェルネイル”の方法を伝授してもらった。
文=伊藤光希 写真=編集部
はじめに〜ジェルネイルとは?
こんにちは、フィンガースタイル・ギタリストの伊藤光希です。今回は僕も採用している爪の補強法“ジェルネイル”について解説します。あくまでも僕が研究して現状採用しているやり方/考え方ですので、ほかの方とは少し違うポイントがあるかもしれませんが、あらかじめご了承ください。
ジェルネイルとは、爪に塗ったジェルに専用のライトを当てて硬化させることで爪を補強する手法です。他手法と比較して、しっかりとした爪の強化と補強面の適度な弾力感を両立でき、近年多くのギタリストが採用しています。
塗る工程に少し手間はかかりますが、塗り方の工夫で簡単に出音を変えることができたり、一般的なマニキュア等と比較して剥がれづらかったりと、ギタリストにとっての魅力が多い補強法です。
準備するアイテム
UVまたはLEDライト
ジェルの硬化に用います。ジェルの種類によって、UVとLEDで硬化時間が異なったり、またどちらかでしか硬化しないものもあるため、事前に確認してから購入しましょう。
小型なもの(写真右)を持っておくと、ライブ前に急に剥がれてしまった時などに便利。
カラージェル
爪に色をつけるためのジェルです。好きな色を入れたい場合は準備します。
プライマー
ベースジェルの定着をよくする液体です。ジェルを塗る前に地爪に塗ります。
なくても問題ありませんが、あるとネイルの持ちが良くなります。
ネイルファイル
爪用のやすりです。爪の長さを調節するためのものと、断面を整えるためのもの(スポンジバッファ、シャイナー)を両方揃えておきましょう。
ジェルネイルの流れ
<所要時間:30分〜1時間>
1. 甘皮を取る
ヘラとカッターを使って、爪の根元にある甘皮を除去します。まずヘラで甘皮を爪の根元に向かって押し込み、浮いた甘皮をカッターで取り除きます。また、甘皮周辺の角質もヘラで落とします。鉄板からお好み焼きのコゲを取るイメージで。残っているとジェルが浮いて剥がれやすくなる原因になるので、丁寧に進めましょう。
2. 爪の表面にやすりで傷をつける
目の粗いネイルファイルを使って、爪の表面に傷をつけます。爪の表面をザラザラにしておくことで、このあとに塗るベースジェルがその凹凸に入り込み、剥がれづらくなります。
※削りすぎると地爪が薄くなってしまうので注意しましょう。
3. 爪の表面から汚れ・油分を取る
消毒用アルコールを染み込ませたコットンやティッシュに、2.で生じた爪のくずを拭き取りつつ、爪から油分を除去します。終わったら爪が乾くまで待ちましょう。
4. プライマーを塗る
ジェルが特に剥がれやすい爪の先端や根元付近にプライマーを塗ります。全体に塗っても問題ありませんが、ジェルを落としづらくなるため、前述のような剥がれやすい箇所に塗れば十分です。
5. ベースジェルを塗る
筆の片面のみにジェルを少量すくい、先ほどザラザラにした爪の表面に“擦り込む”イメージで筆をゴシゴシと動かしベースジェルを塗ります。
その後、凹凸を覆うように更にベースジェルを乗せると、見た目がきれいになります。ベースに大きな凹凸ができると仕上がりにも凹凸ができるので、慌てずゆっくり塗りましょう! またジェル表面の細かな凹凸は少し待つと馴染んでくるため、塗布後に10秒程度放置してください。
この時ジェルが爪から指にはみ出てしまうと、その部分が必ずネイルの浮き・剥がれにつながるため、端まで塗り過ぎずに少しゆとりを持たせて塗りましょう。
6. ランプでベースジェルを硬化する
お手持ちのベースジェルに記載されている指定の時間だけライトを照射して、ベースジェルを硬化させます。厚みを出したい場合、このあとにベースジェルを重ね塗りしても良いでしょう。
カラージェルを入れて色をつけたい場合は、このあとに重ね塗りをし、同じようにライトで硬化してください。
※ランプで硬化する際、ジェルからやけどのような熱さ(硬化熱)を感じる場合があります。痛みを感じた場合はすぐにライトから指をはずし、少し休ませてから再度ライトを当ててください。
7. トップジェルを塗る
ベースジェルと同じように筆の片面にトップジェルを少量取り、爪の上に塗り広げます。凹凸ができた際は10秒程度放置し、表面が落ち着くまで待ちましょう。どうしても凹凸が治らない場合は表面のみを軽く筆でなぞって整えます。

8. ランプでトップジェルを硬化する
ベースジェルと同じく、表示の時間どおりにライトを照射してジェルを硬化させます。
さらに厚みを持たせたい場合、ここでトップジェルを重ね塗りしても良いでしょう。ベースジェルとの比率は……個々に試して研究してみてください。
9. 最後に爪の形を整える
爪の形を弾きやすいように整えます。爪の弦に当たる部分をイメージして、引っかかりのないようにネイルファイルで削り、形を整えます。
また削ったあとは、スポンジバッファ、シャイナーを用いて表面を整えましょう。ここで爪の先端にバリを残すと、如実に音に表われるので注意してください!
特に指の腹側の先端は見落としがちですが、弦に触れる大切な箇所なので、丁寧に磨くと格段に弾きやすくなります。



ジェルネイルQ&A
1. 成功させるためのアドバイスは?
トップジェルの種類によっては、硬化後に表面にベトベト(未硬化ジェル)が残ることがあります。残った場合はコットンやティッシュに消毒用アルコールを染み込ませて拭き取ると下からつるつるの表面が現われます。
また、多くの方は右利きのため、利き手ではない左手でジェルを塗ることになりますが、机の上等に右手は固定した状態で左手を動かすと少し塗りやすくなります。
2. 失敗したらどうすれば?
ネイルファイルによる整形でカバーしきれないようなミスは、やり直すしかないかもしれません……! 全工程のやり直しは少し時間がかかるため、できるだけ丁寧に進めましょう!
3. 演奏前にしたほうが良いお手入れは?
爪の先端に凹凸があると、出音に影響したり、弦に引っかかって弾きづらさの原因になったりしてしまいます。ライブやレコーディング前に、スポンジバッファ、シャイナーで爪の形や先端の凹凸を整えると気持ちよく演奏できます。
4. 生活で困ることはありますか?
非常に高い確率で、会った人から“爪がきれいだね”と言われるようになります(笑)。
日常生活で見た目の問題などがなければ、特に不自由は感じないかと思います。一般的なマニキュアなどよりもかなり爪が強靭になるため、むしろ割れづらい等のメリットがあります。
5. ジェルネイルを塗り替える時期は?
一般的に3週間程度が目安と言われています。あまり頻繁に塗り直しをすると地爪が薄くなってしまう危険性があるため、一定以上の期間を空けたほうが良いでしょう。
ただし、期間を空けすぎると黄ばんで見た目が悪くなったり、質感が劣化して弾きづらくなったりすることがあるため、放置しすぎるのも良くありません。
ネイルオフ(ジェルネイル除去)の流れ
<所要時間:30分〜40分>
1. 道具を準備する

2. やすりでトップコートを削る
トップコートはリムーバーで落とせないため、ネイルファイルで削り落とします。表面が曇った見た目になるまでを目安として削ります。
ネイルファイルを手動で動かし続けるのが大変な場合は、先端のやすりが電動で回転するネイルマシンを導入するのも手段です。
また、爪の削りカスが出るため、ラップやティッシュなどを下に敷くのがおすすめです。
3. リムーバーで各指15分ずつふやかす
ここでは、リムーバーが染み込んだコットンを使用します。それを爪に押し当てるように乗せ、その上からアルミホイルで指に巻きつけ、15分程度放置します。
ジェルネイルのオフにも多様な便利グッズが販売されているので、いろいろ試してみると少しずつ効率化できるかもしれません。


4. ジェルを落とす
しばらくリムーバーをつけると、ジェルがふやけて剥がれてきます。剥がれていない部分はヘラでこそぎ落としますが、爪との接着感が強い場合はもう少しリムーバーをつけて待ちましょう。
無理やり剥がすと爪を痛める原因になるので注意が必要です。

ギタリストに向けたアドバイス!
補強した爪は長さ・厚さによって出音が大きく変化します。研究には時間と手間がかかる上、初めは微妙な違いをとらえづらいため、まずはご自身の好きなギタリストの爪の作り方を真似するのがおすすめです。インターネットを隅々まで調べるか、ライブに行って本人に聞いてみましょう! きっと教えてくれるはずですよ。
その上で参考までに、爪の形状による音への影響について、筆者の所感を以下に書きます。僕も常に研究しながら調整しているため明確な数値等は出せませんが、長さ・厚さ共に、程度によって音質やタッチの感覚が変化していくため、好みのポイントを見つけるのが大切です。
爪の長さの考え方
ギターを演奏する際、音の成分に“爪部分の硬さ・鋭さ”と“指の肉部分の柔らかさ・太さ”があるとすると、爪が長いほど弦にタッチする際に爪が先行して当たりやすくなる(逆に、指の肉は当たりづらくなる)ため、前者の成分が増えるイメージです。ご自身が目指す音や弾き方を念頭に置いて調整しましょう!
爪の厚みと出音の関係
爪の厚みによってもやはり音が変化します。ピックの厚さと出音の関係性に例えるとイメージしやすいかもしれません。薄いピックはシャカシャカした音が気持ち良いですし、厚いピックは密度感のある音を出しやすいようなイメージです。
最終的な出音は、指の肉の当て方も含めてトータルで検討します!
指ごとに爪の長さを調整する
まず最初はそれぞれの指で同じような状態に整えるのがおすすめです。弾いていくうちに、欲しい音とプレイアビリティの観点でそれぞれの長さ・厚さを調整していくと理想により近づけるかもしれません。
例えば、僕は親指は爪が他指よりも長め・厚めですが、それには太い弦に負けない強さを持たせたい、低音の輪郭をはっきりさせたいなどの理由があります。
爪にカラーを入れる場合
演奏に使う指にカラージェルを入れると爪の厚さが増す=出音が意図しない方向に変わってしまうため、僕は親指~薬指にはカラーを入れていません。小指だけ小さなオシャレ要素としてカラーを入れたり入れなかったり、という具合です。その際に入れる色は好きな色、季節のイメージの色、演奏する会場のイメージカラーなど、気分で変えています。
もし好みの色を入れたい場合は、爪の厚みを考慮しつつ、気分が上がる色を入れてみるのも楽しいかもしれません!