両国国技館で開かれた歌とアコギの祭典、“J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE 2023 supported by 奥村組”(3月4日~5日開催)。開催直前に“歓声OK”となった今年、ライブ本来の醍醐味を楽しもうと、多くの人がこの大相撲の聖地(!)に集まった。ここでは初日公演のレポートをお届けしよう。
3月4日(土)
まずは林龍佑(fusen)がオープニング・アクトの役目を務めたあと、藤原さくらとReiのふたりが鏡割りの儀式に登場。ローリング・ストーンズ「スタート・ミー・アップ」のSEとともに開会を宣言する。アツい。会場のボルテージもグッと上がったのがわかった。
トップバッターは、華々しい振袖姿で登場したみゆな。激しいダウン・ピッキングで攻める「埋葬」を始め、アコギ1本で闘うスタイルを貫いて会場を沸かせた。次のCLOWは対照的。儚げな歌声と繊細な指弾きで、観客を夢心地の世界に引き込む。続くは今回が初登場という七尾旅人だ。ここから場数を踏んだライブ巧者の“すごみ”が出てくるような。波の音や虫の鳴き声をサンプリングして使った「蒼い魚」や「この素晴らしき世界」が圧巻だった。時折吹く“口笛”もいい。ナイロン弦と口笛の音、そのふたつでこうも心地良くなれるものなのか。そして大歓声に包まれて現われたのが、67年製ギブソンJ-45を携えた秦 基博。その豪快な鳴りはただただ驚きだった。「キミ、メグル、ボク」では、この日初のスタンディング・オベーションが沸き起こる盛り上がりを見せ、前半が終了。
後半はゲスト・アクトの滝沢ジョーが歌ったあと、藤原さくら×Reiでスタート。藤原の安定したバッキングに乗っかり、ギブソン製LG-2の乾いた音で多彩にソロを繰り出すReiの力技よ。とにかくキマリまくりのプレイに魅せられる。続いて初登場の高橋優は、「明日はきっといい日になる」などの人気曲を連発し、リズミカルなバッキングで国技館の熱気をさらに渦巻かせた。
休憩中、グローバーの演奏を挟み登場したのが、遠目に見たその出立はもうボブ・ディラン(!)斉藤和義である。愛器J-45のまとまった音も手伝って、歌がスッと体に入ってくる。ディレイを使った「やさしくなりたい」の名リフも、生で聴くとグッとくる度合いが段違い。
そしてフィナーレに向けて横綱級、ポルノグラフィティの岡野昭仁が登場! アコギ弾き語りは(ほぼ)初ということだったが、「アポロ」には会場爆上がりだった。その熱気をあとにトリを飾ったのは、高橋、岡野、斉藤、TOSHI-LOWという4人の異色コラボである。マイクは4人の中央に1本のみ、「明日なき世界」、「満月の夕」を全員で静かに歌い上げ、初日はしっとりと終演を迎えた。
3月5日(日)
公演2日目は、19歳とは思えぬ森大翔の流麗なテクニックが炸裂してスタート。次いでTani Yuukiがセンチメンタルな感情を歌で届けたのち、待ってました岸谷香の登場。初っ端から大名曲「Diamonds」の熱唱で会場は大盛り上がり。OO-18スタイルの深紅のシグネチャー・ギターも目を惹いたが、ルーパーを駆使して演奏するさまは一番“イマ”だった。そしてギタージャンボリー最多出演という竹原ピストルが入場。雄叫びのような歌と同調してグワングワンと鳴る凄まじい重低音。これがアコギ1本から出る音なのかと、しばし放心した。
その後の休憩はゲスト・アクトの日菜が演奏。そしてUKULELE GYPSYで再開演。「あなたに会いたくて」、「小さな恋のうた」など名曲を、キヨサクがウクレレで奏でながら歌った。体がゆったりと横に揺れて気持ち良い。このリラックス・ムードに、満を持して登場したのがハナレグミだ。もう、とにかく柔らかで自然。ギターと歌声がひとつになり、観客の呼吸感とも見事に合わさっていた。ムードはうって変わり、続くはこの日の鏡割りを務めたTOSHI-LOW。内田勘太郎とセッションした話を枕に突入した憂歌団の「胸が痛い」には興奮! 日本ブルースの名曲が国技館に響き渡った。
再びの幕間では、Ichika Nitoがエレキ・ギターで独自の世界を展開し……いよいよ来た! 森山良子。自身が影響を受けてきたアメリカのフォーク・ソングの演奏……華麗なインレイが施されたマーティン・カスタムでポツリポツリと弾く「朝日のあたる家」の迫力には、のまれるようなものがあった。盟友・ハナレグミを呼び込んで演奏した「深呼吸」、“ざわわ、ざわわ……”と言霊が舞っていく「さとうきび畑」でステージをあとに。
ラストに向けてはあと2組。トータス松本の盛り上がりはすごかった。スモール・ボディのギブソンB-25をガシガシと弾き鳴らし、「ええねん」、「借金大王」と会場を盛り立てる。“みんなの声が聞こえる幸せ”を噛みしめて歌った「ガッツだぜ!!」では、コール&レスポンスの大合唱に感動した。そして最後に登場したのは平井 大。自身が敬愛するジョン・メイヤーのカバー「コール・ミー・ザ・ブリーズ」(原曲はJ.J.ケイル)でブルージィに弾き倒しつつも、「祈り花」や「Stand by me, Stand by you.」では甘いムードで会場を虜にしていた。そのまま終演と思いきや、鳴り止まぬ拍手で平井がアンコール登場。「また逢う日まで」で、この大祭典を見事に締めた。歌とギターの力をこれ以上なく味わえるJ-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE。春の風物詩と呼んでも、誰も文句は言わないだろう。
ギターの詳細は4/27発売アコースティック・ギター・マガジンVol.96にてお届けするので、お楽しみに!
文:辻昌志 写真:上飯坂一