2023年4月、日本武道館で通算100回のライブを行なったエリック・クラプトン。そのライブで使用したアコースティック系の機材を、ギター・テックのダン・ディアンリーのコメントとともに紹介しよう。まずは、マーティン000-28ECからだ。
Martin 000-28EC(Main)
伝説となった1992年のアンプラグドでのライブ以降、数々のシグネチャー・モデルをマーティン社と作ってきたエリック・クラプトン(以下、EC)。“2000年代前半からライブでは、ほぼ「000-28EC」を使用しています。基本的に市販モデルと同じで、トップはスプルース、サイド&バックはイースト・インディアン・ローズウッドという仕様です”と、長年ECのギター・テックを務めるダン・ディアンリーが語るように、かなりのお気に入りのようだ。ECのシグネチャー・モデルと言えば、サイド&バックに貴重なブラジリアン・ローズウッドが使われたモデルも過去に発売されているが、ライブで使いやすいのは音にまとまりがあり、倍音も出過ぎない“000-28EC”がベストなのだろう。
今回のツアーで大きな変更点と言えば、内蔵されているピックアップがドイツのブランド、K&Kが手がけるピエゾ・ピックアップ“Pure Mini”に変更されていたこと。これは、3つのピエゾ素子をブリッジ・プレートに貼り付けて、バランスの良い出力を目指したモデルだ。
“K&Kのピックアップを初めて使ったのは、2022年の年越しライブ(訳注:去年の大晦日~新年にかけて行なわれたゲイリー・ブルッカーの追悼ライブ)でしたが、その時は1曲だけでした。アコースティック・セットで使用したのは今回の武道館公演が初めてです。サブ・ギターも含めた、すべてにインストールされています”。
こちらの000-28ECはメイン・ギターと思われ、使い込まれているためか、わずかだがボディ・バック上部の塗装面に傷が確認できる。また、ネック・ヒールには白いストラップ・ピンが追加されている。
Martin 000-28EC(Sub)
こちらはサブでスタンバイされていた000-28EC。メインと比べて、トップの色があめ色に近く濃い。しかしイースト・インディアン・ローズウッドの色味はやや淡く、1本1本に個体差が感じられる。オープン・バックのチューナーが取り付けられたヘッド裏には丸いシールが貼られ、“1”と入っている。
“ステージでセッティングする際、メインとスペアのアコースティック・ギターでEQを少し変えているので、それがすぐに分かるようにシールを貼っています”とダンが語るとおり、メインとサブを区別するためのシールとなる。基本的な仕様はメインと同じで、こちらもK&Kの“Pure Mini”がインストールされている。
今回ECが好むアコースティック・ギターのセティングや使用弦についても、ダンに聞いた。
“1フレットの弦高は0.010~0.15インチ(約0.3〜0.4mm)、12フレットは0.070~0.080インチ(約1.8〜2mm)、ネック・リリーフ(※ネックの反り)はかなりストレートにし、強く弾くと5~7フレットあたりが少しバズる程度にセッティングしてあります。弦は、マーティンのMEC12 Eric Clapton Phosphor Bronze LIGHT(12-54)を張っています”。
弾き語りやバンドで使うための一般的なアコースティック・ギターのセッティングよりも弦高が低く、ネックもストレートに調整するのは、エレクトリック・ギターと違和感なく弾くためと思われる。また強く弾いた際にバズがわずかに出るセッティングは、ECのみならず、他のプロ・ミュージシャンのセッティングでもよく見られる。弦のバズは必ずしも悪いわけではなく、その音はミュージシャンの個性にもつながっている。このあたりにもECサウンドの秘密がありそうだ。
※本記事は、2023年7月27日発売のアコースティック・ギター・マガジン 2023年9月号 Vol.97にも掲載されています。
取材・文:菊池真平 撮影:星野俊 協力:ウドー音楽事務所