世界屈指のテクニカル・ギタリスト=ニック・ジョンストンが語る、アコースティック・ギターの魅力

卓越したテクニックが世界中で注目を集めるニック・ジョンストン。彼の作品はエレキ・ギターによるインストが中心だが、随所でアコースティック・ギターによる美しいメロディ・プレイやフォーキーなバッキングも聴くことができる。今回は、彼の最新作『Child of Bliss』の話を軸に、アコギの魅力について語ってもらった。

インタビュー=アコースティック・ギター・マガジンWEB 翻訳=トミー・モリー

どんな楽器と重ねても特別なものをもたらしてくれる

──あなたの楽曲はアコースティック・ギターが大きな役割を担うものも多いですよね。

 アコースティック・ギターが作り出す躍動感が僕は好きでね。アナログなサウンドの中に何か大切なものがあって、ダビングした際にもたらしてくれるクオリティも大好きなんだ。どんな楽器と重ねても特別なものをもたらしてくれるよ。

 普通は相性が良くないからやらないのかもしれないのだろうけど、加工しまくったシンセやヘヴィなベースに繊細なアコースティック・ギターを組み合わせるのも好きなんだ。アコースティック・ギターは常に音楽に何かをもたらしてくれるんだよ。

──新作の『Child of Bliss』でも、「Voice On The Wind」のメロディ・プレイや「Himawari」のバッキングなど、アコギが印象的な瞬間が多いですね。

 でも実は今回のアルバムはアコースティック・ギターは控え目にしていたところがあって、それは今までのアルバムでは最初から最後までずっとアコースティック・ギターがステレオで鳴りっぱなしで、やりつくした感じがあったからなんだ。

 今作では、ソロをプレイする際にリズム・ギターをあえて入れていないところがけっこうあって、今までとは異なるダイナミクスを作り出してくれているんだ。

──フル・バンドのアンサンブルの中でアコースティック・ギターを使う際に、ギター自体のサウンドやコードの帯域、ほかのパートのアレンジで考えることはありますか?

 個人的には、その楽器によって低域がどれだけ埋め尽くされるかに注意している。だからコードもどのバージョンでプレイするのか、特にアコースティック・ギターならネック上のどの位置でプレイするのかを気にするよね。

 あとは、ステレオのフィールドの中でどこに配置させるのか、どのスペースが不足するのかも考えている。スティーリー・ダンはその点に関してかなりうまくサウンドを作っていて、僕も同じようにディストーションの効いたギターを真ん中にしながら、アコースティック楽器を別のところに配置させたりしている。

 今回のアルバムはそういったことも徹底的に考えたアルバムなんだ。全体のフィーリングやサウンドを何よりも重視していると言えるだろうね。

ニック・ジョンストン

ジャストよりも少し後ノリ気味にプレイしている

──「Voice On The Wind」はアコースティック・ギターで叙情的にメロディを奏でています。『Wide Eyes in the Dark』(2019年)の「A Cure Promised」などもそうですが、アコギで表現するメロディの魅力はどんなところにあると感じていますか?

 とても美しくてクリアでパーフェクトなサウンドだってことだね。そして楽曲にダイナミクスを与えて華やかに仕上げてくれることにも、同じくらい魅力を感じる。アコースティック・ギターで作り出すダイナミクスに対して、エレクトリック・ギターを絡めると、さらに次のレベルへと持っていってくれる気がするんだ。

 例えば「Every Drop of Blood, Pt.1」(『Wide Eyes in the Dark』収録)は、9割近くアコースティック・ギターによって引っ張っているところから、急にエレクトリック・ギターを含むフル・バンドが入ってくことで強いコントラストをつけることができる。アコースティック・ギターはダイナミクスを付加するひとつの方法だと思うし、曲にある種の進化をもたらしてくれるんだ。

 最初からガツンとくる強烈なインパクトがなくても、徐々に盛り上げていくのにはアコースティック・ギターはもってこいだし、パット・メセニーはそういうアプローチが上手だよね。

──パット・メセニーの名前が挙がりましたが、アコースティック・ギターのサウンドが素晴らしいと思うプレイヤーを教えて下さい。

 たくさんいるよ。若い頃の僕にとってジプシー・ジャズはとても影響力が強くて、ローゼンバーグ・トリオも好きだし、ビレリ・ラグレーン、ジャンゴ・ラインハルトは特に大きな存在だ。彼らはしっかりとメロディを使って表現し、とても特徴的なビブラートをプレイしていた。

──アコースティック・ギターを弾く際に意識していることは?

 最大限にクリアなサウンドでプレイすることだね。そして、ビートに対してジャストよりも少し後ノリ気味にプレイしている。可能な限り後ノリ気味でプレイしたいと思っていて、ピアノのようなアプローチとも言えるだろうね。

──レコーディングではどんなアコギを使いましたか?

 何種類かのマーティン、ヤマハやテイラー、ほかにも使ったものがあったはずだけど……思い出せないや(笑)。とにかくたくさんのアコースティック・ギターを使ったよ。

──アコースティック・ギターをレコーディングする時はマイク録りですか?

 基本的にマイクで録音していたね。僕にはまだ、ピックアップやDIって偽物っぽいサウンドのように聴こえてね。

 それにアコースティック・ギターって表現力豊かにプレイするうえで適した楽器だと思うんだ。あまりにもリアルで、プラグインなんて使う必要もない。文字どおりアナログな楽器で、とてもピュアなんだ。だから、マイクでアコースティックなサウンドを拾うほうが好きなんだよ。

──あなたの音楽とってアコースティック・ギターとはどんな存在ですか?

 アコースティック・ギターは僕のサウンドの大きな部分を占める楽器としてこれからも使い続けるだろうね。ただ、僕はまだ自分の音楽キャリアの若いステージにいると思っていて、すべての楽器のしかるべき使い方を模索している途中なんだよ。

『Child Of Bliss』ニック・ジョンストン

P-VINE/PCD-25382/2024年3月8日リリース

Track List

  1. Black Widow Silk
  2. Child Of Bliss
  3. Through The Golden Forest
  4. Moon?ower
  5. Himawari
  6. Memento Vivere
  7. Little Thorn
  8. Voice On The Wind

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