こーじゅんが21の奏法を詰め込んだ、最初で最後のソロ・ギター・アルバム『THE FIRST AND LAST』

ギター講師としてスクールの経営もしているギタリスト、こーじゅんが、クラウドファンディングによってソロ・ギター・アルバム『THE FIRST AND LAST』のリリースを実現した。クラファン支援者へのリターンとしてのみCDが生産されたが、このたび各種音楽配信サービスでアルバムが聴けるように! 彼にとって“最初で最後”となるソロ・アルバムのアレンジや、そこで聴けるさまざまな奏法のこだわりについて語ってもらった。

インタビュー=福崎敬太 撮影=西槇太一

年齢的な筋肉のピークもありますし、時期を探っていたんです

──『THE FIRST AND LAST』はタイトルのとおり“最初で最後”ということですが、これは“ソロ・ギター・アルバムとして”という意味ですか?

 そうです。アンサンブルでは出すかもしれないので、保険として一応そう言っておきます(笑)。動画を出す時もひとりで弾いているし、ソロ・ギタリストっぽく見えていると思うんですが、このスタイルで音源を出すのはもうやらないと思いますね。

──今作を実現したクラウドファンディングのサイトを読むと、溜めていたオリジナル曲は、新しい奏法が思いつくたびに進化させていったそうですね。それは“完成形として記録したくない”みたいなところもあったのでしょうか?

 まさにそれはありました。でも、“このくらいだろう”と見極めるのも大事だなっていうのは考えてて。年齢的な筋肉のピークもありますし、時期をちゃんと探っていたんですよ。

 自分の21種類の奏法をまとめたのが今回のアルバムなんですが、“筋肉でいく!”みたいな無茶な奏法も多くて、そういうものは若くないと難しい。

 それに、新しい奏法として信じられないくらいの瞬間移動を試していた時に、怪我をしたことがあったんです。張ったばかりの弦がすぐ切れたり、怪我をしたりするようなら、それはもう奏法とは呼べないんじゃないかって思って。ドラクエのマダンテみたいな(笑)。

──捨て身の技ですね(笑)。

 そうなんです。だんだんとそういう方向にいくようになったので、“自分の中で新しい奏法はもうないな”ともなったし、アップデートしようっていうのもそろそろ見極めかなと。それで“はい、納品!”という時期が今だった。

──収録楽曲で古いものはいつ頃作った曲からあるのでしょうか?

 原型で言うと、以前に趣味でやっていた弾き語りのメロディが入っているものもあって。例えば「冒険」のサビは、20歳頃に歌っていた「新しい景色」っていう曲のサビのメロディだったり。

 16歳の自分が好きだったメロディも入っているかもしれないので、明確にいつからっていうのはないですね。ギターを始めてから今までに好きだったメロディの、オールスターみたいな感じです。

──キーはフラット系が多いですが、基本的に半音下げですか?

 「そよ風」、「直感」、「気まま」、「Lee」、「Magic」がレギュラー・チューニング、「陽炎」がレギュラー・チューニングで3カポ、あとは半音下げです。

──半音下げにしている理由は?

 昔はアコギの調整も今ほど気軽にやってもらえる時代じゃなくて、自分でトラスロッドを調節するのも怖かったので、テンションを下げるために半音下げていたんです。それに、半音下げれば弦高も下がりますし。

 それが癖になっていって、自分でなんとなくチューニングすると、だいたい6弦がD♯/E♭になるような耳になっていったんです。

 あと、BUMP OF CHICKENが凄く好きなんですけど、彼らの曲も半音下げが多い。その共通点もあって、“半音下げが自分スタンダードなのかな”っていう気持ちで、そうしています。

こーじゅん

寝巻きであぐらをかいて録ることにしたんです

──アルバム全体のイメージとして考えていたことはありますか?

 まず、自然な感じが演奏に出たらいいなっていうのがあって。それで、最初に録って“これでOK”ってなった8曲くらいを録り直したんです。それは綺麗に弾けていたテイクだったんですけど、“俺、こんなに綺麗に弾けないから”って思い始めたんですよね。

 いつもはネックも少し反っていてビビったりするのが、綺麗に録れていて。弦高が低くてジジジって鳴るノイズもないし、がむしゃらな感じがない。“成人式だから無理してスーツ”みたいな、よそ行きな感じの音で(笑)。

──着飾っちゃってる感じですね(笑)。

 その時は椅子に座って弾いていたんですけど、いつも家で弾いてるいるようにやり直すって言って、寝巻きであぐらをかいて録ることにしたんですよ。最初はクリックを鳴らしていたんですが、それもやめて、家みたいな感じで録れたらいいなって。

──1本のギターでメロディ、ハーモニー、リズムを担わなくてはなりませんが、アレンジで考えていたことはありますか?

 僕の中に、“メロディじゃないところをメロディと思わせる”っていうテーマがあって。例えば「直感」は伴奏みたいなフレーズですけど、それでも音楽として聴けるものにしたかったんです。

 ただ、うしろで流れていて邪魔しないようなBGMにはなりたくなくて。別の何かに集中している時には、“この音楽うるさいから止めて!”ってなるような、耳に入ってくるものにしたい。そうするとやっぱり、綺麗だといけない。全曲で歪な感じがどこかにないといけなくて。

──ハーモニーの作り方やコード・ボイシングの選び方で何かポイントはありますか?

 曲ごとに“この曲ではM7thをアピールしたい”、“この曲では♭7thを〜”、“この曲ではm7(♭5)を〜”、って分かれていて。例えば「直感」だとm7thやm9thの良さを出せたらいいなと思って作りましたね。

 で、ボイシングは、ギターを活かしたものじゃないと僕は好きじゃなくて。ピアノにはできないなっていうボイシングがあるなら、絶対にそっちを選んでいます。例えば半音階でぶつけるクラスターみたいな、「呼吸」で弾いている2弦の5フレットと1弦の1フレットが鳴るコードだったり。そういうほうが、ギターが“俺の特権だぜ!”みたいに喜んでくれるかなって。

──ギターが喜ぶボイシングって良いですね〜。

 あとは1つのコードを押さえてるだけでも、離れた音を入れるようにはしていますね。ベースとメロディとハーモニーが分かれるような。「誕生」みたいなカッティングでは、真ん中で密集させたりはしますけど、「Continue」のように散らすことが多いです。コードをバンって弾いた時に、ベースとメロディとハーモニーが分かれるようなボイシングを選んでいます。

 あとは、音。3弦のAより4弦のAのほうが音がちょっと太いから、とかも考えています。

こーじゅん

ずっと初心者でいたいんです

──「Earth」のCフォームで5弦ルートのDを弾く場面など、開放弦を使うことによる音の広がりも印象的ですが、こだわっているポイントはありますか?

 めちゃくちゃあります! 開放弦がずっと鳴っていると、空間的な広がりが出ますけど、それを生かしすぎると“狙ってるな!”と僕は思ってしまうので、最小限に留めるようにしているんです。

 例えば、洞窟の中で鳴っているようなボイシングをイメージして、この音とこの音でその感じになるっていう時に、どちらか1つだけで“そんな気がするな”っていうぐらいにしたいんですよね。

 開放弦を使う時も不協和音を使う時も一瞬で、サブリミナル効果みたいな感じになるように意識していて。“これチョコレート入れてるのわかんなかったでしょ〜”みたいに、隠し味っぽくやりたいんです。

──色んな奏法を試す中では右手の表現のほうが多く占めると思いますが、今作でのポイントはありますか?

 まず僕は指弾きを全然やってこなかったので、レコーディングするってなった時に指弾きが上手いほかの人を参考にさせてもらったんです。いろんな人と直接会う中で、ピックでやってきたことを、もっと指で弾けたほうがいいなと思って。

 それで、プルの方向にはじいているけど小さい音が出るように、弱く弾くようなやり方だけど大きい音が出るように、っていう逆のやり方をめっちゃ勉強したんです。

 例えば、テレビでもボリュームを下げたら、本来めちゃくちゃ大きい音が鳴っているのに小さいじゃないですか。そういうことが右手でできるようになりたかったんです。

──それが上手く表現できてる曲だと?

 「呼吸」や「ヒゲ」もそうですけど、一番わかりやすいのは「Continue」かな。僕の中では、凄く速い音が凄く小さく入っています。

──使用機材についても聴かせて下さい。

 フォルヒのOM23CRCTだけですね。マイク録りだけで、リバーブなどはあとでかけました。

──エフェクティブなのは「Lee」くらいですよね

 最初で最後のアルバムなんだから何かしたいと思って、「Lee」のすっごい深いディレイと「Opening」の最初でラジオみたいなトーンから始まるのを、遊び心でやってみましたね。

──では、“最初で最後のアルバム”をリリースした今、考えていることを聞かせて下さい。

 自分がまず、作品にする気はもともとはなかったんですよね。こんなこと言っていいかわからないですけど、この21曲はすべて、自分がレベルアップするための練習曲として作ったエチュードなんです。メカニカルじゃなくて曲っぽいほうが楽しいからこういう音楽になっただけで。

 それにソロでやっているのも、自分ひとりでいつでもどこでもできるからで。注意されたんですけど、思い立って急に階段や駅の前でも弾き始めちゃったりするので(笑)。

 その中で自分のやりたいことは全部できた。もちろん精度やクオリティを高くするっていう点では終わりはないから、ずっとやっていくことではあると思うんですけど、それは1を100にする作業なんですよ。でも僕は、0を1にするのが好きなので、“生み出したらもう大丈夫です!”みたいな感じで。

 なので、クラウドファンディングのリターンとしてやったライブでも、すでに“新しいことがやりたい”って言っていて(笑)。

──もう次のことを考えているんですね。

 結果的に音楽で仕事をさせてもらっている立場ですけど、基本的にはずっと初心者でいたいんです。いつまでも変わらずに挑戦者として、ちょっとでもできるようになったら、もう次のことを始めちゃう。どういうジャンルになっても根本は変わらず、“挑戦し続けます!”という感じですね。

こーじゅん

『THE FIRST AND LAST』こーじゅん

『THE FIRST AND LAST』
自主制作/2024年6月5日配信リリース

Track List

  1. Opening
  2. ヒゲ
  3. Bird
  4. 誕生
  5. 陽炎
  6. Continue
  7. 呼吸
  8. 冒険
  9. そよ風
  10. 直感
  11. 気まま
  12. Mist
  13. 秘密基地
  14. Lee
  15. スナイパー
  16. Earth
  17. 高架橋
  18. Magic
  19. 夜明け
  20. Ending

関連リンク
KGA Studio|https://kga-studio.jp/first-time/

SNSでシェアする

アコースティック・ギター・マガジン

バックナンバー一覧へ